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「コレ美味いね」
細長いチーカマを両手で掴み口に運ぶワンペは俺と同じ浴衣姿。
ワンペサイズの浴衣など当然ある訳もなく……
温泉に行くと決めた当日、玩具店で買った『ヴァービー人形』の衣装である。
思い切りパチ臭く痛い商品だったが、それを買う俺への店員の視線の方が万倍痛かった。
もう二度とあの店には行けんな。行くことも無いけど。
秋葉でフィギュアとかなら普通に買えるんだが、女の子向けの人形衣装を買うのは勇気が必要だったね。あの差は何なんだろう?
ビールを傾け一口喉に流し込めば、独特の苦味が口内に広がり炭酸が喉を刺激する。
ああ、これで一緒にいるのがワンペじゃなく弥栄さんだったらな……
浴衣姿の弥栄さんとか考えただけで丼三杯はいけるね!
かく言うワンペはあぐらでチーカマを頬張りながら、テレビで流れているお笑い番組に夢中。
コイツ一応分類は魔物なんだよな?ものっそいオッサン臭いんだが。
「いやー、お兄さんに着いてきて正解だったよ。新しい場所は見れるし、堂々とテレビも見れる」
「まあ、普段は構わんが何かあったら働けよ」
何かあった場合、結界が張れない俺としてはワンペの存在がキーとなる。
虎の穴みたいに隔離された場所なら兎も角、普通の場所でレーヴァティンを振るう訳にはいかんからな。
「任せておいてよ。不肖ワンペ、お兄さんのお役に立つべく頑張らせて頂きます!」
握り拳の親指を立ててビシッと俺に向けてくるが……チーカマを放さんかい。
そんな久しぶりのノンビリした一時だったが、世の常なのか俺の運が悪いのか、平穏は長く続かなかった。
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