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温泉宿の二日目。
最近の習慣で早い時間に目が覚めた俺は山間を散策していた。
夏真っ盛りだが、山の木々に遮られた朝日に暑さは感じられず、むしろ心地よさすら覚える。
「あたーらしーい朝が来た」
「俺は死んでねぇし、星人と戦いもしねえ」
戦うのは魔物だ……あんま変わりないか。
せっかくの爽やかな朝がワンペの歌のせいで台無しだ。
ま、そろそろ朝飯の時間だし宿に戻るとすっか。
しかし……朝から山を散歩とか、俺も健康的になったもんだ。去年の今頃なんて、クーラーの効いた自室からマトモに出た記憶がない。
歩くこと十分少々、宿の前に戻れば何やら騒がしい。
どうやら宿の入り口で口論しているようだ。
「この宿を売る気はありませんと何度申し上げれば分かって頂けるのでしょう」
「分からない婆さんだな。こんな客の一人も居ない宿を買ってやろうって俺達の優しさが」
「お客様ならいらっしゃいます。お客様のご迷惑になりますのでお引き取り下さい」
「こんな辺鄙(へんぴ)な場所に客~?言うならもっとマシな嘘吐けや」
むう、どうにも戻りにくい。
女将が応対しているのは明らかに「ヤ」のつく職業の方々だろう。
だって、服装のセンスが違うもの。白のズボンに紫のシャツ、金のネックレスに指にはこれでもかと言う程の指輪が光っている。
決め手はパンチパーマとサングラスとヒゲです。もう「ヤ」の人の典型です。
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