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「お兄さんお兄さん」
懐から襟を引きお兄さんに訴える。
「ああ、すまんな。意外とあの人強いわ」
小声で応えてくれるお兄さんだけど、その口振りから黒スーツが契約者の可能性など考えもしてないのが分かった。
「いや、あの黒スーツの人―――」
言いかけた所で黒スーツが再び間合いを詰め、お兄さんの顔面を狙った掌底を繰り出してくる。
ああ!黒スーツ空気嫁!
当然、お兄さんとの会話は中断され、攻防が再開された。
右に左に、上に下に。
懐の中、襟裾を掴んではいるものの、シェイカーの中の氷の様に跳ね回る僕。
そろそろ限界です。
喉の辺りまで熱いモノが込み上げて来てます。
ここでブチ撒けたら、後で確実にお仕置きと言う名の折檻が待っている……
こうなったら最終手段だ。
動きが止まった一瞬を見計らい、掴んでいた襟裾を離すと両手の平を打ち合わせる。
パンッという乾いた音と共に僕の周囲から空間の色が落ちる。
結界だ。
様々な色の落ちたセピア色の空間は一気に広がり旅館の敷地全体を包み込む。
僕の予想が正しければ、今この空間に居るのは契約者であるお兄さんと結界を張った僕。
そして……
「結界……お前も契約者だったか」
平然と佇む黒スーツの三人だけだった。
で、僕は限界です。
急いでお兄さんの懐から顔を出し、そこから酸味漂う煌びやかな液体を床に向かって垂れ流してみました。
―ワンペside out―
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