Prologue『そんな感じ』

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六月の半ば、緑の木々が生い茂る森。海外で見る森は日本で見るそれと違い新鮮さを覚えた。 今は三泊五日の海外旅行、気ままな一人旅の真っ最中だ。 大学を卒業したはいいが、この不景気である。就職先が見つからず時間を持て余した俺は自分探しの旅と称して、かねてからの夢であった海外一人旅を満喫しているのだ。 「決してNEETの決め台詞じゃないぞ。勘違いするな」 誰にともなく言い訳をするが、当然答えは返ってこない。 辺りに見えるのは見渡す限りの木々。 つまり…… 海外の一人旅という頼る者のない状況下で迷子になってしまったのだ。 「何気にマズいな……これ」 人は一人になると独り言が増えると知ったが、今の状況でそんな発見は何も生み出さない。 「皆さん!一ノ瀬、一ノ瀬 裕也を宜しくお願いします!」 選挙カーから身を乗り出す候補者張りに名乗りを挙げてみるが、返ってくるのは風が葉を揺らす音と虫の声のみである。 獣の声がしないだけマシかとも思ったが、何にしろ今の現状に変化はない。 バックパックから地図と磁石を取り出し、だいたいの現在地を割り出そうとするものの磁石は針をクルクルと回らせていて方角を示すことを拒否している。 つまり…… 完全な迷子。むしろ遭難であった。 「遭難ですか……そうなんです」 知らない土地で、しかも右も左も解らない森で迷ってしまった事で精神的に追い詰められているのだから下らない事を言ってしまうのも仕方ない。 何か口にしないと不安で心が押し潰されてしまいそうなのだ。
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