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「それじゃ、私は戻るわ。ユーヤも戻りましょう」
「戻る?家にか?」
女の子は腰を引いた体勢で杖を支えに立ち上がる。
よほど尻が痛いのか、その様子は腰が曲がった老人のようだ。
「そんな尻で大丈夫か?」
「Youがやったんでしょう!」
おおぅ、キレられちった。
再び顔を真っ赤にさせた女の子は、自らの体重を支える杖を支点に何とか背筋を伸ばす。
膝が笑ってるのはご愛敬ってとこか。
「いくわよ」
耳慣れない言葉が女の子の口から紡ぎ出される。
全く理解出来ない言語だ。
文法どころの話じゃない。単語すら理解出来なかった。
それを数節口にすると女の子が手に持つ杖が輝き始める。
「Return」
“浮上”
その英語で呟かれた一言だけは分かった。
そして、その一言を最後に俺の意識は遠のいていく。
誰も居なくなった茜色に染まる河辺。
穏やかな優しい風が吹く景色の中。
ただ一点、鉄橋の下に残る砕けた氷柱が冷気もそのままに溶けることなく存在し続けていた。
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