11369人が本棚に入れています
本棚に追加
握る手が柔らかいな~。もう死んでもいいかも……って、死んじゃダメだ!まだ2LDKも見てないし、弥栄さんを「ゲットだぜ!」ってしてない!
「ご武運を」
弥栄さんに引かれて扉を抜けるとき、改めて頭を下げる三宅さんの姿が視界の隅に入った。
何時かはあーゆー紳士になりたいもんだ。今の俺じゃどうやっても枕言葉に“変態という名”が付いちまう。
それはそうと、前を行く弥栄さんからいい匂いがする。
くんかくんか。
すーはーすーはー。
シャンプーかリンスか香水か?何かは分からんが、ときめいちゃうぜ。
そんな至福の時間も長くは続かない。二階から降りるだけなのだから、ものの数秒だ。
「乗りますよ」
「乗りますよって……これ救急車ですよね?」
ビルの正面、路肩に止められていたのは白が基調で赤いラインが入ったのワンボックス。赤色灯がその存在感を際立たせる救急車だった。
「説明は中でしますから早く乗って下さい!」
後部座席へのドアを開いた弥栄さんは俺の背中を押し車内へと押し込む。
おや?救急車なんて乗ったことないから知らないが、少なくともドラマや何かで見るような内装はしてない。
片側には無機質な長椅子が備えられ、長椅子の対面、ドアがある側には長方形のボックスが設置されている。
「お願いします!」
「任せて下さい!」
ドアを閉めた弥栄さんの言葉に応えたのは男の声。運転席に座る男が何やらスイッチを操作すると頭上より甲高い音が鳴り響く。
言わずと知れた回転灯の音である。
最初のコメントを投稿しよう!