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俺は猫を出来るだけ揺らさない様に注意しながら、走り始める。
さっきの不良に見つかるまいと、バイクのエンジン音とは逆の方向に進んでいく。
進行方向に偶然有ることを祈りながら動物病院を探していると、抱いている猫が嫌そうに身を捩っている事に気がついた。
あぁ、部活帰りだから服が汗臭いのか……
猫は嗅覚が鋭いし、嫌がるのも無理は無い。
だが……
「死にたくないなら、臭いくらい我慢してくれ……」
これ以上、無駄な体力使うとマジで危ないだろうし。
猫の心配をしつつも、周りの景色が住宅街から田んぼばかりの道に変わった事に焦りを覚える。
普通、こんな場所に動物病院なんて無いだろ!
俺は前方に山が見えたところでスピードを緩め始め、山の直ぐ前で停止した。
「ここまで来れば、大丈夫だろ……」
流石に、あの不良もこんな所までは来ないはず。
道も舗装されてないし、エンジン音も聞こえないしな。
緊張が解けた俺は無意識の内に腕の力を少し緩めてしまったらしく、猫は俺の腕から抜け出して地面に着地し、そのまま山の中へ一瞬で駆けて行ってしまった。
……あれ、何であの猫あんなに元気に走って行けたんだ?
最後の力を振り絞ったにしては、動きが軽やか過ぎた気が……
いや、元気になったんなら良いんだけどさ……
「……」
あまりに突然の出来事に俺は暫くその場で呆然としていた。
……帰るか。
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