act.1

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∞∞∞ コンコン… 「失礼します」 俺は生徒会室の扉を開けると、あの生徒会長が椅子に座りデスクに肘を置いて頬杖をついていた。 「遅い!!!」 「兄貴がゆっくりで良いって言ったんで…」 俺は兄貴の名前を口にすると、生徒会長は口に尖らせた。 「とりあえず、こっち来てよ」 生徒会長の所まで歩み寄ると、生徒会長が急に深刻そうな表情を浮かべた。 「玉森君…」 聴き慣れない呼び名。 「これ、なんの真似だ?」 そう言って、デスクの置かれた一枚の手紙。 3つ折りになっていて、表に大きく【転校届】と書かれている。 これは紛れも無く俺が書いたもの。 「見ての通り、転校届けです…」 「わかってる。それで、なんでこんなもの俺に持ってきたんだ?」 俺は目を背けた。 別に怒られてる訳じゃ無いのに、なんだろうこの気持ち…。 「別にね、退学じゃないから止めやしないんだけど…。 なんでかくらい理由を聞いてもいいんじゃないか?」 生徒会長が俺の顔を覗き込む。 理由か…。 『母が錯乱するんです』って言えるわけ無い。 それで、『太輔は北条の子、私の子じゃない』って叫んで物が飛んでくる。 終いには、『北条の空気で生きて行けない、一緒に東条で暮らしましょう』なんて言い出すしまつ。 そんなの毎日見てたら、俺の方がおかしくなりそうだ。 だから、一刻も早くこの地獄から助かるためだったら、北条を出て兄貴から離れて、全く知らない未知の土地で暮らした方がましだった。 「……か、家庭の事情です…」 喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺はうつ向いた。 「……そうか、わかった」 生徒会長はため息を一つつき、微笑んだ。 「行き先は、書いてある通り【東条】?」 俺は小さくうなずく。 「藤ヶ谷裕太君…」 俺は顔を上げた。 懐かしい呼び名…。 「いってらっしゃい♪」 生徒会長の笑顔は、なんの疑いも迷いも無い優しい笑顔だった。 俺はもう一度うなずくと、元気よく返事をした。 「はい!!」
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