71人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
∞∞∞
コンコン…
「失礼します」
俺は生徒会室の扉を開けると、あの生徒会長が椅子に座りデスクに肘を置いて頬杖をついていた。
「遅い!!!」
「兄貴がゆっくりで良いって言ったんで…」
俺は兄貴の名前を口にすると、生徒会長は口に尖らせた。
「とりあえず、こっち来てよ」
生徒会長の所まで歩み寄ると、生徒会長が急に深刻そうな表情を浮かべた。
「玉森君…」
聴き慣れない呼び名。
「これ、なんの真似だ?」
そう言って、デスクの置かれた一枚の手紙。
3つ折りになっていて、表に大きく【転校届】と書かれている。
これは紛れも無く俺が書いたもの。
「見ての通り、転校届けです…」
「わかってる。それで、なんでこんなもの俺に持ってきたんだ?」
俺は目を背けた。
別に怒られてる訳じゃ無いのに、なんだろうこの気持ち…。
「別にね、退学じゃないから止めやしないんだけど…。
なんでかくらい理由を聞いてもいいんじゃないか?」
生徒会長が俺の顔を覗き込む。
理由か…。
『母が錯乱するんです』って言えるわけ無い。
それで、『太輔は北条の子、私の子じゃない』って叫んで物が飛んでくる。
終いには、『北条の空気で生きて行けない、一緒に東条で暮らしましょう』なんて言い出すしまつ。
そんなの毎日見てたら、俺の方がおかしくなりそうだ。
だから、一刻も早くこの地獄から助かるためだったら、北条を出て兄貴から離れて、全く知らない未知の土地で暮らした方がましだった。
「……か、家庭の事情です…」
喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺はうつ向いた。
「……そうか、わかった」
生徒会長はため息を一つつき、微笑んだ。
「行き先は、書いてある通り【東条】?」
俺は小さくうなずく。
「藤ヶ谷裕太君…」
俺は顔を上げた。
懐かしい呼び名…。
「いってらっしゃい♪」
生徒会長の笑顔は、なんの疑いも迷いも無い優しい笑顔だった。
俺はもう一度うなずくと、元気よく返事をした。
「はい!!」
最初のコメントを投稿しよう!