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「では、お帰りになられますか?
手筈は既に整えてあります」
そう言うのは眼鏡をかけた女性だ。
スーツに身を包み、肩口まである茶色の髪をウェーブさせていた。
「いやはや、こんな所まで迎えに来てくれるとは……君は本当に優秀だね。
だがちょっと時間を取ろう。
今から脱出も良いが、直にお茶の時間だ。
いつ何時であろうとお茶の時間はきちんと守る、これぞ紳士の嗜み。
今日は、そうだな……カモミールが飲みたい。
それと君が作る焼き立てのスコーンが食べたいな」
全身赤色の衣に身を包んだ男が人差し指を立てる。
男の名は、“フリー=ロッテルダム・ウィリアムス”。
先程、グラム=スケイス准将から逃げた男である。
「既に」
彼女はどこから取り出したか、純白の染み一つない大きなクロスを盛大にはためかせた。
するとどうした事か、さっきまで何もなかった筈の場所にお茶のセットが一式現れたではないか。
「おおっ、流石だな、加水君。
それとミルクも貰えるかね?」
「既に」
それはもう、まるでマジックでも見るかのように、彼女が白いハンカチサイズの布をはためかせると、テーブル・セットの上にミルクが現れた。
「エックセレントだよ、加水君」
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