8人が本棚に入れています
本棚に追加
「恐縮です」
彼女が静かにフリーに頭を下げる。
フリーが紅茶のカップを手に取り、先ずは香りを楽しみそれから中の液体に口を付けた。
海風の吹くアンダー・フォニクスの甲板部、こんな場所では潮が強くて紅茶の香りなど解らなくなるだろうが、つっこんではいけない。
「本を」
「既に」
加水が目を瞑り、腕でテーブルの端を指し示した。
フリーがそちらに顔を向けると、いつの間に置いていたのか本の山が出来上がっていた。
「流石だよ加水君」
「恐縮です」
紅茶を飲み、スコーンを食べおえた後、本を手に取りパラパラと読み始めたフリーの顔を彼女がじっと見ていた。
「ん、何かね?」
「いえ、とても満ち足りたような顔をしていますので。
久しく会っていない古い友人に会えた、そんな顔をしていますので、こんな場所でも何か収穫が在ったのだと、私は推測しています」
「流石、加水君だ。
――そう、私は今とても気分が良い。
彼はもういない、解っている筈なのに、この最低の場所で彼がいるような気配を感じた。
その時の気持ちはまさに最高だったと言っても過言ではないだろう。
最初は勘違いかとも思ったが、これは間違いなく彼の気配だ。
最初のコメントを投稿しよう!