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「そう、か。あそこでマスターは……研究をしていたのか」
「……そうだね。あの閉ざされた部屋は初めてだったけれど」
あらゆるセキュリティで守られ厳重に閉ざされた黄土色の室内を思い出す。
「そうか……」
「私があの都市から去ってそれ以降に作られたのだろう。中に足を踏み入れてまず目を覆う惨状に驚いた。そして砕け散ったガラス。壊れた保存機械。白く濁って濡れた床。黒いドレスの少女……」
しばらく難しい顔で言葉を選んでいたマスターが再び口を開く。
「……最初、私はドレスの女性をカフカさんだと思った」
「…………」
「だけど、アレは私のよく知っている高度な保存処理をされた何年も経った亡骸。その脇で寄り添うように倒れた白衣の月代さん。それを見て私が当時何を創ろうとしていたか――直感した」
マスターの心中は俺なんかに推し量る事は出来ない複雑な気持ちなのだろう。
眉をひそめ瞳を細くして。気を紛らわすように顎髭を何度も弄っていた。
「…………」
どれだけの沈黙をしたかそのままの状態でマスターの言葉は続かない。
当然、されるべき話がない。
そうか。
カフカ……はきっと。
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