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電話を仕舞ってため息をついた森野は思った。
(まったく……本当に面倒な事になった)
まさか、あの女が逃げ出すとは……。上層部もそんな事態は考えていなかったはずだ。
逃げ出すのは命がけだし、現実のセキュリティは万全。
侵入や脱出はおろか、客人を迎えるのにも何重のチェック。
指紋に声紋。暗証番号にIDカード……これ以上はないってぐらい。
挙句に都市内に限っては軍用の監視衛星。通常であれば逃げ出すのは不可能だろう。
だが、あの女は絶対のセキュリティ。それをなんなく破っちまった。
メタモルフォーゼ……変身ね。使い方次第で、逃げ出す気になりゃ逃げられるって事。
そう考えて。
漏れ出した本音。
「つくづく、『異能』ってのはおっかねぇ」
森野は再び煙草に火をつける。一服、二服とまずそうに。
「まったく合わない任務だ。化けモンの相手など化けモンがやりゃーいいのに……」
独り言をもらして。
その言葉を最後に暫くの沈黙。
これ以上愚痴を言ったところでしょうがないとでも思っているのだろう。
ただ指先に挟んだ煙草を口元に運んでいった。
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