序章

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   ゴミの影に隠れた少女はこの一時を永遠のように感じていた。 「――こっちだ!」 (……見つかった。まずい)  少女は振り返りなどせずに全力でその場から走り出した。  はぁはぁはぁ……と。  荒ぶる呼吸が聞こえる。  激しい鼓動まで聞こえてきそうだ。今にも心臓が飛び出しそうな表情。  沸き上がる目眩を押さえ息を切らして少女は思った。 (……どのくらい走ったのか? もうダメだ。私の足じゃ逃げ切れない……)  膝をガクガクと震わせ弾けそうな胸を押さえる。拳を握りしめたままで。  少女は覚悟を決め――周りを見渡しはじめた。右へ左へと。せわしなく顔を動かしていく。  やがて、  ただ一カ所に釘付けになっていく視線。  少女の瞳に映ったものは一匹の犬だった。  その姿は闇に溶けている。  まるで夜そのもののように。 (あの犬!)  そう思った。  考える時間を惜しむように。  直ぐに呼吸を整えてゆく。 「ふうぅぅぅ~」  深呼吸。 「ふう」  呼吸。
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