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「おいっッッ! オマエらあぁっッ! ――女はどこにいったんだあぁァッッッ!」
ベレー帽を目深に被った男が、闇に向かいありったけの声を張り上げている。
さして広くない路地裏。
その轟きは余すところなく響き渡った。
その声で緊張したのは殺気を隠しもしない、黒一色で統一された装いの集団。
その影は大小様々だった。それらの連中がピタリと動きを硬直させる。
すぐその脇を犬がタッと駆け抜けていった。
怒鳴りに返答したのは二色の声で、まるで言い訳のように。
「すいません。この角までは追い詰めたのですが……」
「……煙のように、消えてしまいました」
しかめた顔のまま僅かな時間考え、怒鳴った男は無理に表情を平静に戻したように見える。
やがて視線を下に向けて、腕の時計を見つめた。現時刻は、20時21分を指していた。
そして納得したように軽く顎を引くと小さく舌を鳴らして口を開く。
「チッ。そうか、能力を使いやがったのか。まぁ、いい……今すぐB塔本部に連絡しろ!」
集団に歩みを進めながベレー帽の男がそう指示を飛ばした。
と、その時。
平均より少しだけ背の低い男が上司の顔色を窺いつつ、おずおずと口を開いた。
「……彼女は能力者、ですよね? このままでは捜索は困難かと思いますが?」
「フン。“ちから”にはリミットがあるだろう? 大丈夫……研究では未だ奴は初期段階。そのうえ、時間制限もある」
そう言って更に歩みを進めて再び言葉を吐き出す。
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