第19章 世界を傾ける力

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   独り言のように言って伸ばした左手の手首に視線を充てている。  また、計測しているのか?  あれはさっきも見ていた、時計のような計器。  レイチェルはすぐそこから視線を外して左手を前に出したまま言った。 「いや、びっくりしたわ。いきなり過ぎでしょう? 生身の人間じゃアナタには敵わないって。だから念の為……こっちも準備をしてきたわ」 「sるdkfj;す9、w!」  その前方から叫んだ光の存在。  前回と全く同じで意味不明の言語が再び空間を渡る。 「……グレンツェントは発声が苦手、と」  そこで一度言葉を切って右手の平で金髪をかきあげる。 「書面で知ってはいたけれどこれが輝きか。長い【アーク】の歴史で神域に至った《Metamorphose》に接触出来た者は数えるほど。ワタシがそこに名を連ねるとは記念すべき事。とはいえ、入り口じゃやはりこの程度ね」  この程度だと?  その言葉に俺は驚愕するしかなかった。あの存在が繰り出す奇跡はどれもこれも尋常ではない。  それに対しての物言いとしては通常ならハッタリにしか聞こえない。  だが、左手をカフカに向けて構えたままのレイチェルの横顔にはさっきの焦燥はなく余裕さえ浮かんでいた。
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