第19章 世界を傾ける力

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   だが、レイチェルの最後の切り札さえ今のカフカには通用しなかった。  左手を覆っていた闇色の手袋は波紋ごと溶けてなくなる。  初めからそんな物は存在していなかったように。 「……な、な!」  言葉にならない言葉を発してレイチェルの顔色が今度こそ変わった。  カフカが目の前へと身体を躍らせ、レイチェルへとしがみつく。  その絵は金と銀が絡んで入り混じった尋常でなく美しい情景。  そのまま金髪へと優しく囁いただろう呟きが俺の耳に届く。 「ごめんなさい。どうしてもこれしか思い付かないの……もう時間がないから――付き合って」  その澄んだ声は言い知れぬ覚悟を確かに俺へと伝えた……。  そして。カフカの喉から導き出された力強き言葉。 「ラュ――・タァークル」  呪文のように。  その瞬間だった。  空気が激しく振動する。  空間が捻れていく。  世界の流れが著しく乱れているのが分かった。  この感覚は俺が異能を使う際、感じるモノに酷似している……。  だが、規模が違う。  そう考えた瞬間。弾けるような終焉の音に合わせて理が完全に壊れた。
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