第19章 世界を傾ける力

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   俺の叫びは動きに合わせてフロア中に反響する。  引きずられる身体はいつまでも止まらない。右へ左へと留まる事を許されないように続いている。  酸っぱくて苦い味が口内を支配した。極限に高まった嘔吐感、胃液が逆流を始め気が遠くなっていく。  カフカ――――  混濁して迷走する意識を救うように。俺の耳へと飛び込んだのは凛とした清涼な美声。  さっきの叫びに答えるように。  決意を込めて放たれただろう言葉があらゆる他の雑音を遮断してハッキリと聞こえた。 「大丈夫、悲しまないで。もう私は運命にも異能にも負けない。自分で未来を切り開くわ――」  その声に俺の目から涙が出た。 「――バイバイ、響也」  カフカ……。  なんで、は今も変わらない。絶対に消せない想い。  だけど。  カフカに向けて言わなきゃならない言葉は違う!  極限の状態で。  心底から最後の力を振り絞ってカフカの言葉に応える。 「――必ずっ! 必ず、帰って来い! いつまでも待ってる!」  その呼びかけには答えず、にっこりと笑ったカフカ。  レイチェルを道連れに。突然カフカに重なった空間の歪みへ。  ぽっかりと口を開けた黒い穴。二人を呑み込んで急速に閉じてゆく。  そして、全て消えた。  出血で血の巡らない頭。痺れる身体。  俺の意識も限界を超えまどろみの内側へと。  遂に途絶えた――――
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