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再び柊が言った。
顔を射す光が幻想的なコントラストを演出していてその表情は一切わからない。
「月代さんの目的はどうだったとしても……彼は【方舟】に囚われていた俺を解放してくれた恩人だから」
そうか、こいつも十年以上前に能力実験で囚われていた被害者だったのか……。
全てに合点がいく。
コイツには同情さえする。
だけど俺の口から出てきたのはこんなセリフだった。
「そんなの俺には関係ないし、俺がどうこう言う筋じゃないね」
「ハハ、君に語られたくはないし賢明な判断だよ。挨拶とは言ったけど、これ自体は独白のつもりだからさ」
「…………」
「…………」
しばらく沈黙したままただ二人で川の流れるさまを眺める。
オレンジ色が宵闇に支配されそうになった頃、柊がおもむろに口を開いた。
「……まぁ、そういうわけで俺は第3都市にて変わらず辣腕を振るうとするよ。この国に好きなようにさせない為にも、ね」
自嘲気味に笑いながら言ったその言葉に俺はすぐ返答をした。
「がんばれよ」
「……言われるまでもないさ。じゃあ」
それを最後に。耳からぶら下がる十字架のピアスをギリギリ落ちていない日光で僅かに反射して立ち去った。
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