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 どうしてもこの喜びを直接伝えたくて、私は足取りも軽く会社へと向かった。  私の姿を認めると、彼は踵を返してその場を立ち去ろうとした。これまでは社内で何よりも彼の立場を重んじてきた私だけれど、この時ばかりはそうは行かなかった。  強引にエレベーターの扉をこじ開けて乗り込み、二人きりの空間に作り上げた。 「……久しぶり」  彼は普段通りの抑揚で私に話し掛けてきた。ただそれだけの事なのに、胸が締め付けられるように彼の温もりを懐かく感じた。 「あのね、私、赤ちゃんができたの」  誇らしげに、高らかに彼に告げると、彼は信じられないといった様に笑顔を見せた――
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