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狭い路地の一角に位置する一軒家。
手入れの行き届いた小さな庭は、青々と短く刈り込まれた芝生が光を受け、季節の花々が真っ白な花弁を誇らしげに称えていた。
「暑くなりそうですね」
庭仕事中の女性が眩しそうに目を細めながら満面の笑みを浮かべ、つば広の帽子を傾けながら会釈してくる。
通りすがりの私に馴れ馴れしい物言いが実に苛立たしい。
しかしそんな素振りなど見せずに笑顔で、
「綺麗に咲きましたね。ちょっとお庭拝見させていただいてもよろしいでしょうか」
と返すと、女性は快く私を庭先に招き入れた。
「お腹、だいぶ大きくなりましたね」
不意に、私の腹部を凝視する女の背後から悪夢の中の野獣の影が形を変え、すいと伸びながら怪しく蠢いた。
そしてそいつは大きなかま首をもたげ、こちらの様子を伺っている。
私のすべてを奪われる前に、この獣と対峙しなくては。
再び花壇に水やりを始めた女の死角に音もなく忍び寄ると、用意してきた出刃包丁の刃先が上を向くよう、バッグの中でしっかりと握り締めた。
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