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あぁ。心待ちにした愛しい人の分身。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
と、赤ん坊を抱き抱えてこちらに歩み寄った助産師の笑顔が、明らかに歪んで見えた。
長い手足、深い茶褐色の肌、細かくカールした漆黒の髪の毛、それはまるであの人には似つかない――。
私の中の、何か大切なものが音をたてて砕け散っていく。
疲弊しきった身体から抜け落ちた邪悪な魂が、怒号をあげながら回復室を駆け巡る。それは紛れもない、私自身の絶叫。
これこそが悪夢の正体。
どうしても私は赤ん坊を正視する事ができなかった。
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