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思いがけない老刑事の一言に詩織は憮然とした。
「そんな、馬鹿な。そんな事考えられません……実は私共夫婦は夫が、その、無精子症といって男性不妊の一種なんですが、子供を望めないんです。だからこそあの方には健康な赤ちゃんを育ててほしい……絶対に何かの間違いなんです」
最後の方はまるで独り言のようで、自分自身に言い聞かせているようでもあった。
老刑事は悪怯れることもなく、
「それはそれは……立ち入った事を伺って申し訳ありませんでした」
と言ってのけると、今度は事務的な口調で続けた。
「その問題の女性なんですがね、主治医に確認したところ、出産そのものは無事に終え、お子さんもNICUで万全の管理下に置かれている様です。ただ、母親の方がだいぶ取り乱しておられるようでして。まぁ、全容解明にはしばらく時間がかかるでしょうな」
これ以上は追及されないと感じ、詩織は慇懃に振る舞いながら老刑事を玄関口へと追いやった。
「そうですか。私が直接出向くのは躊躇われますので、どうかお大事にとお伝えください」
そう冷たく言い放ち、白木の扉を固く閉ざした。
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