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老刑事を見送ると、詩織は庭が一目で見渡せる小さな窓辺にたたずんだ。
この家は一人きりでは広すぎて、夏だというのに背筋まで冷え込んでくる思いがした。
夫の事は信頼している。
けれども何の希望も持たず、両親の言うがままに結婚を決めた私が、夫の何を知っているというのだろう。
しくしくと脇腹の傷が時折痛み、今朝の出来事が詩織にとって紛れもない現実だったのだと思い知らされた。
夕焼けが照らしだす、茜色に染まった限りなく透明な空を、夜の訪れと共に灰色の闇がゆっくりと侵食していく。
東の空にぼんやりと架かった月をいつまでも眺めながら、詩織は自分に殺意を向けた女の心情に想いを馳せた。
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