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 そんな私達の関係に転機が訪れたのは入社二年後の、ある日のこと。  当時の私は職場における人間関係にひどく頭を悩ませていた。周りの同僚や上司から孤立していた私の噂を聞き付け、それとなく声を掛けてくれたのは彼の方だった。  既に昇任し、社内でも出世コースをひた走る彼が、滅多に顔を合わせる事のない私を覚えていてくれた事が単純に嬉しかった。有頂天になっていたのかもしれない。  私は飲み慣れない酒を飲み、彼に心の内を洗いざらいぶちまけた。  そしてその日のうちに男と女の関係に。彼はその頃既に結婚していたにも拘らず、だ。  その時から私達は共犯者になった。誰にも悟られないよう、用心深く週に一度の逢瀬を重ね、心も身体も解放し、互いの全てを与えあった。  彼は自分の結んだ婚姻に愛はないのだと繰り返し私に語ってくれた。制約だらけの婚姻は、彼とその妻の間についに子供を儲けることはなかった。
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