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 ――闇夜が、揺れる。  静寂にこだまするのは、川原の小石を踏み付ける私の足音。よろめいても、つまづいて膝を擦り剥こうとも、一心不乱に走り続けるしかない――  背後には血のように赤い、ほおづきのような月が架かっていて、その柔らかな光が照らし出すのは、私を追い詰めようと手を伸ばす大きな影の存在だった。  姿を窺い知る事はできないが、おそらくそれは獣の形をしているのだろう。まるで獲物をいたぶるようにジリジリと距離を詰めると、長く鋭い爪が夜明け間近の強ばった空気を切り裂くようにシュンと音をたて、風に流れる後ろ髪を絡めるように掴み取った。    その瞬間、踏みしめる私の爪先が頼りなく空を掻き――それはまるでスローモーションのようにこの身をふぅわりと宙に浮かび上げ、人間という玩具を手にした強大な力が、面白可笑しく私の首を捻った。
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