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昌浩の支度が終わったので露木さんの手伝いをしようとした。
だが、丁寧にそして頑なに断られた。
女なら、いろんな手伝いができるだろうこの時代。
俺は安倍家のものたちのために何が出来る…?
考えに耽っていた俺は、昌浩の父上が来ていたのに気付きもしなかった。
そして勿論、話の内容も耳に入ってなかった。
「物の怪も分際で、熟睡するなんて厚かましい!!」
そんな昌浩の怒鳴り声で、俺は意識を現実に戻した。そして、些か不安そうな顔をしている昌浩の父親、安倍吉昌の存在に気付いたのだった。
「あのっ、」
「ん?あぁ、君がお父様の言っていた桜満くんだね。話は聞いているよ。
帰り方が見つかるまで、ここを自分の家だと思って頑張りなさい」
そう言って、露木さんと同じように優しく微笑んだ。あの…俺が言うのも何ですが、安倍家の人たちは優しすぎじゃないですか?
「では、行って参ります」
「昌浩、どこに行くつもりだ?」
白兎の首根っこを掴んで出ていこうとする昌浩に、吉昌さんは不思議そうに言った。
「大内裏にですよ、そんなの決まって…」
「お前、ちゃんと暦は見ておるのか?」
親子の会話を交互に聞いていると、そこにこの邸の主である晴明さんが現れた。ほけほけと笑う晴明さんは孫をからかうのが楽しいです。と言っているような顔だった。
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