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「昌浩、お前今日から二日ばかり物忌みに当たっておるのだが、分かっておろうな?」
「―――」
昌浩は晴明さんと吉昌さんを交互に見た。
「…物忌み、ということは…?」
「邸に籠もって精進潔斎。…というか、昌浩よ。まさかまさか、そんな大事な事も気付かなかったなどと情けないことを言うのではあるまいな?
いくら人には向き不向きがあり、お前はお世辞にも作暦が得意とは言い難いが、それは認めるが、だからと言って自分の暦くらいはきちんと把握しておかぬばならをだろう」
まぁ、それはごもっともな話ですね。
だが、もっとオブラートに包んであげてもいいのでは無いだろうか?
いくら成人しているといっても、まだ子供なんだ。
…と言っても、ゆとり教育のある時代からやってきた俺には何も言えないな。
「あぁ、このじい様の教え方に不手際があったばかりに、可愛いお前に苦労をさせてしまうことになるとは。
見習とはいえ仮にも陰陽師が、自分の物忌みの日も把握しておらんとはなんたることだ。
現在の陰陽寮全体の士気にも関わってくるではないか。
昌浩や、じい様は切ない、情けないぞ…」
昌浩が切れそうになるのを理性で押さえているが見て取れる。
だが、駄目だ。
笑いを耐えるために、何も言うことは出来ない。
「というわけで、本日は物忌みじゃ。
大人しく邸に籠もっておれ」
昌浩がむすっとした表情で頭を下げ、どたどたと音を立てながら自室に戻っていった。
あー。
あの様子だと、昌浩は物に当たる方だな。
怒りを人にぶつけないだけマシな方だが、物に当たるのもどうだと思うぞ。
「…我が息子ながら、あの極端さは如何ともし難いものがあります…」
「まぁそう言うな。
頭で考えるものが苦手なのは、昌浩の性分だからの。
わしも昔はそうだった」
楽しそうに笑う晴明さんを見て、じじ馬鹿なのかと一瞬頭を過った。
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