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「待てーーー!!」 夜の帳に響く、声変わりの終わっていない少年の声。 「いや、待っちゃくれんだろう、この場合は」 冷静に事を伝えたのは兎に似た姿の物の怪、通称もっくん。 風に靡く長い耳に白い毛、そして赤い瞳。 それと同色の勾玉のような突起が首周りを一巡する。 「いちいち突っ込むな!何か良い手立てはないのかっ」 癇癪を起こして喚くのは、十代前半の少年。 名を安倍昌浩という。 海老茶色の狩衣を纏い、墨色の手甲をつけて、身軽に走駆している。 首の後ろでくくった髪が、動きに合わせて大きく跳ねる。 昌浩と物の怪は、とある目的のため毎晩京の町を徘徊しているのだが、その道中で妖怪と遭遇した。 「えぇい、待てったら待てっ!!」 昌浩は陰陽師だ。 物の怪いわく、「仮に、見習いで、半人前で、頼りないけど」陰陽師。 もっとも、陰陽師という位を授かっているわけではない。 陰陽の術を使えるから「陰陽師」なのだ。 世間的に「陰陽師といったら、これである。 「待てこ、っ!?」 声を張り上げようとした瞬間、地鳴りと共に白い光が辺りを照らした。 驚き止まるもすでに地鳴りは止んでいて、残るは今にも消えそうな光芒の先だった。 「あそこに何が!?」 「さぁな…取り敢えずあの車を調伏してから見に行くか」 物の怪の言葉に既に消えた光芒の場所を覚えつつ、妖怪をどう足止めするか考えた。 そういえば、足止めするための呪歌などというものが存在していたりしたのだった。 「その行く先は我知らず、足を留めよ、アビラウンケン」 キキィと男を立てて、妖怪は急停車した。 じりじりと近付けは、妖怪は動けない様子でアタフタと周りに視線を走らせる。 「オンアビラウンキャンシャラクタン!」 真言を唱えると、妖怪がビクビクと身を竦ませた。
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