城下町幽玄クラブ

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城下町幽玄クラブ

 あれは何の木だろう。暗くてよく分からないが、とても大きな木が立ち並んでいる。何(いず)れも大人二人以上でなければ回らないほどの大木ばかりだ。  今夜は全くの無風。虫の声さえも止んでいる。どうしたのだろう。真夜中の森はとても静かだ。  地上にはふさふさとした草が、櫛(くし)で梳(す)いたようにうねっている。頭上を見上げれば沢山の枝葉が、森に分厚い蓋(ふた)をしたように繁っている。  暗い。闇がたっぷりと溜まっている。  息を殺し、注意深く進んでいく。すると、闇に霞む木々のずっと奥の方に、そこだけポツンと、異様に明るい場所が見える。何だろう。  少年が一人立っていた。  全身黒ずくめの衣装で、頭にも黒いバンダナを巻いている。足元は草に埋もれていて見えない。  太い木の幹に背を預け、上を見るような恰好で立っている。しかしその目は閉じられていた。このような真夜中の森の中で、何をしているのだろう。身じろぎひとつしない。まさか、死んでいるのだろうか。  少年が見上げるその先には、葉の茂りの中にほんの少し切れ間があるらしく、その隙間から細く月光が射していた。さっき明るく見えたのは、この月の光だったらしい。  光りは一本の線のように急角度で射し込み、少年の全身に降り注いでいる。だが身体は周りの闇に溶け込みあくまでも黒く、目を閉じた白い顔だけが光りを受けて闇に浮かんでいる。生きているのだろうか。
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