風は追い風。

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一言で表すなら、人の海と本物の海。 試験会場を抜けた先は港。合格した者だけが、辿り着ける。 とはいえ、受験者は約1000人。必然、合格者の数も増える。 実際、入り口ほどではないが、人だらけという程度には混んでいる。 「ったく……あいつどこ居ンだよ。あークソ、人多すぎだっての!」 無事に試験を通過したシャンクは、合格を喜ぶ前に、レド捜索を開始した。 けれども、一向に成果は上がらず。 (まさか、試験に落ちたんじゃねぇだろうな?) 試験の存在も知らなかったレドだ。 嫌な考えとはいえ、笑えない。 (………ん?) 苛つきながら周囲を見渡………いや、睨み付けるシャンクの目に、妙な空白地帯が写る。 人混みをすり抜けながら、目を凝らす。 レドがいた。 港のヘリに、四つん這いで。 怪しさからか、周囲がぽっかり空いていた。 「なーにやってんだお前。 落第してっかと思ったろーが」 シャンクの腕がレドを捕らえる。 猫のように襟首を持たれ、半分ぶら下がる形。 シャンクさん、結構ひどい扱いな。 「おお、シャンクよ。久しぶりだ」 それに頓着せずにのん気に返すレドに、ため息を吐く。 「うむ、海を見ていた」 「海?」 「初めて見た。バラガに海はないからな」 「……バラガ?」 滅多に出てこない単語に、シャンクが眉をひそる。 バラガ。バラガの大樹海。 ここから東に離れた、山四つを飲み込む深山。 ほとんど秘境のような場所だ。 当然、レド達以外は暮らしていないし、集落は樹海の外であっても遠い。 ゆえに、バラガの出身だなどという言葉は、常識外。 まともな身の上である保証はない。 が、 (なるほどな……。だからこの『世間知らず』か) シャンクは、むしろ納得できる事ととった。 (そうなると、どうやって入学書を貰ったかになるんだが………どうでもいいか) シャンクの座右の銘は「今を生きる」。 つまり、過去は過去。 人の評価は自分がする。自分の眼を信じる。 少なくとも、シャンクがレドに下したのは「放っておけないやつ」という評価。 だから、放っておかない。 それでいいのだ、とシャンクは考える。
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