1576人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ま、そんなに見つめられて海も本望だろ。
そろそろ時間だ。行くぞ」
「もう少し。まだ見ていたい」
持ち上げられたままで、ここに留まろうとバタバタもがくレド。
よほど気に入ったのか、起こされた今でも、レドの眼は丸く、視線は大海へ。
「だから時間だっての。
それに――」
『試験合格者は、港西側に列を作ってください!
間もなく学園行きが到着いたします!!
繰り返します―』
拡声器越しの赤ローブの声が響き、それに生徒がざわめく。
その中で、シャンクは動かず、意味ありげに海に顔を向けた。
レドもそれに倣(なら)う。
そこからは予想外。
海が、
割れた。
「……海なんて、これからゆっくり見れるっての」
現れたのは、帆船。
ただ、普通の帆船じゃなかった。
何百人といる合格者すら、軽く飲み込めそうなほど、大きな。
「でかい船……」
恐らく、船も初見なのだろう。レドの口から漏れる言葉はシンプルだった。
帆、甲板、イカリ、船首。
その全てが、壮大なまでにでかい。
造りが、通常の帆船と同じであることが不思議に思える。
「巨大帆船『ヤーイル』
これに乗ってくんだからな」と笑う。
「……にしても」が、徐々にその顔が変わり、張り付いたのは青筋。
「水、飛ばし過ぎだっつーの!
新手の歓迎か!?」
他の生徒と違って移動しなかった二人は、浮上の際の水しぶきをもろに被っていた。
濡れ鼠が二匹。
672人と2匹を乗せ、ヤーイルはその身を翻す。
最初のコメントを投稿しよう!