風は追い風。

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「……ま、そんなに見つめられて海も本望だろ。 そろそろ時間だ。行くぞ」 「もう少し。まだ見ていたい」 持ち上げられたままで、ここに留まろうとバタバタもがくレド。 よほど気に入ったのか、起こされた今でも、レドの眼は丸く、視線は大海へ。 「だから時間だっての。 それに――」 『試験合格者は、港西側に列を作ってください! 間もなく学園行きが到着いたします!! 繰り返します―』 拡声器越しの赤ローブの声が響き、それに生徒がざわめく。 その中で、シャンクは動かず、意味ありげに海に顔を向けた。 レドもそれに倣(なら)う。 そこからは予想外。 海が、 割れた。 「……海なんて、これからゆっくり見れるっての」 現れたのは、帆船。 ただ、普通の帆船じゃなかった。 何百人といる合格者すら、軽く飲み込めそうなほど、大きな。 「でかい船……」 恐らく、船も初見なのだろう。レドの口から漏れる言葉はシンプルだった。 帆、甲板、イカリ、船首。 その全てが、壮大なまでにでかい。 造りが、通常の帆船と同じであることが不思議に思える。 「巨大帆船『ヤーイル』 これに乗ってくんだからな」と笑う。 「……にしても」が、徐々にその顔が変わり、張り付いたのは青筋。 「水、飛ばし過ぎだっつーの! 新手の歓迎か!?」 他の生徒と違って移動しなかった二人は、浮上の際の水しぶきをもろに被っていた。 濡れ鼠が二匹。 672人と2匹を乗せ、ヤーイルはその身を翻す。
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