序文― Let's start!―

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焦げ茶色の煉瓦で造られた円形広場。 その入口にレドは立ちつくしていた。 「……祖父よ、人が沢山いるぞ」 レドは思わず独り言を、ついでに言えば居ない人物の名前を漏らした。 多分レドは小さな村に行ったとしても、同じことを言うだろう。何せ、人と言うものを祖父しか知らないのだから。 だが、この時に限って言えば、レドの言葉は妥当だった。 人、人、人、人。 人混みと言うべきか、既に氾濫する寸前の川のような様相だ。氾濫していないのは、誘導係が忠実に職務をこなしているからだろう。 誘導係は他とは違う、目立つ明赤を着けていた。 そして―――その場の誰もがローブを纏っていた。 特に、誘導される人々は見るからに新しい鮮やかなもので、身だしなみも完璧だった。 比べて、レドは汚れた赤茶の、ローブというよりも外套に近いものをまとい、長い黒髪を後ろで適当に束ねていた。 更にトドメと言わんばかりに、薄汚れた布にくるんだ棒状のものを肩にくくり付けている。 救いといえば、元の容貌が整っていることと、髪につやが残っていること。 だがそれでも、およそ身だしなみとは無縁な風体だった。 まあ、 「……祖父よ、なんか色が眼に痛いぞ」 そんなことを気にかけるレドではなかったのだが。 ――時間は二週間前にさかのぼる。
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