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ずっと、レドは山奥で育ってきた。
本当に山奥。人里どころか、道すら無く、あるのは茂みを踏み分けた獣道だけ。
ザバン、と水音をたてながら、沢に仕掛けた罠を引き上げた。
開くと、大きめの川魚が三匹。小さいのが二匹。食えない蟹が何匹か。
大きめの川魚を草縄で束ねて、他は罠をひっくり返して逃がした。
川魚を担ぐように持つ。
産まれてからずっと。物心がつく前から祖父と二人だけで暮らしてきた。
だから人は祖父しか知らない。
だが寂しいと感じたことはなかった。
祖父がいたし、そもそも「大勢」が想像できない。無理に考えると、祖父が一面に仁王立ちしてしまう。
他に人を知らないのだから仕方なくはあるのだが。
それに森は静かだったが、獣や鳥、森の息吹が感じられたから、少し祖父が離れた時でも孤独は感じなかった。
獣道を踏み固めながら茂みを抜けると、少し開けた場所に出る。
その中心部に、簡素な木造の小屋が建てられていた。
そのドアを押し開く。
だが、
「祖父よ、割と大漁だ。新しい罠はいい感じだ。
……む?」
小屋の中には誰も居なかった。
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