6人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
今でも、俺はあの日の事を鮮明に覚えている。
あれは、五歳の時のある日。
家で飼っていた、猫が死んだ。
いつも通りに朝を迎え、いつも通りに母に見送られバスに乗り、いつも通りに幼稚園で楽しい時間を過ごし、いつも通りにバスで帰って来る。
これが普段の流れだ。
だがこの日の家は鍵がかかっており、いつもポストの内側に鍵が貼付けてあるのを取り出し、開けた記憶がある。
母は多分、その日は買い物に行ったのだろう。
父は家から離れた場所で仕事をしているため、家にはあまり帰ってこない。
妹もいるが、なぜか父に付いていくと言い、今は一緒に暮らしてはいない。
今日は友達と遊ぶ約束をしていたので、何をして遊ぶのかな、と考えながらドアを開けたのだが。
その玄関に入ったすぐ目の前に。
家で飼っていた、猫が倒れていた。
本来猫が家で寿命を迎えるというのは珍しい事だが、家は室内に飼っていたため、こうもなる。
その時は、まだ生き物の死というものが理解出来ていなくて。
何故動かないのか、普段はあまり触れさせてはくれない猫にゆっくりと近付き、体に触れてみた。
猫はピクリとも動かない。
冷たくなった猫はピクリとも動かない。
この時に、胸がズキンと痛んだのだ。
最初のコメントを投稿しよう!