I序章O

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今でも、俺はあの日の事を鮮明に覚えている。 あれは、五歳の時のある日。 家で飼っていた、猫が死んだ。 いつも通りに朝を迎え、いつも通りに母に見送られバスに乗り、いつも通りに幼稚園で楽しい時間を過ごし、いつも通りにバスで帰って来る。 これが普段の流れだ。 だがこの日の家は鍵がかかっており、いつもポストの内側に鍵が貼付けてあるのを取り出し、開けた記憶がある。 母は多分、その日は買い物に行ったのだろう。 父は家から離れた場所で仕事をしているため、家にはあまり帰ってこない。 妹もいるが、なぜか父に付いていくと言い、今は一緒に暮らしてはいない。 今日は友達と遊ぶ約束をしていたので、何をして遊ぶのかな、と考えながらドアを開けたのだが。 その玄関に入ったすぐ目の前に。 家で飼っていた、猫が倒れていた。 本来猫が家で寿命を迎えるというのは珍しい事だが、家は室内に飼っていたため、こうもなる。 その時は、まだ生き物の死というものが理解出来ていなくて。 何故動かないのか、普段はあまり触れさせてはくれない猫にゆっくりと近付き、体に触れてみた。 猫はピクリとも動かない。 冷たくなった猫はピクリとも動かない。 この時に、胸がズキンと痛んだのだ。
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