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「幾ら長生きしようが私には寿命がある。だから、私ともっと一緒に歩いてくれ」
そう言い笑顔で私の手を取ったハクタクはもういない。
いっそのこと、私の歴史を喰ってもらいたかったと考える時もあった。
千何度目の春が訪れた。
しかし、あのハクタクはあの頃のように私の元には来ない。
来たのは、私と同じ取り残された吸血鬼だった。
「今年の桜は咲くのが遅かったわね」
「ああ」
吸血鬼の投げた言葉は殆ど耳に入ってこない。いや、私が真面目に聞いていないだけか。
「あんた、何時までハクタクの事引き摺ってんのよ」
「貴女だって巫女さんの事引き摺ってるじゃない。それに私は引き摺っているんじゃあないわ。忘れたくないだけよ」
そう言い私は懐から煙草を取り出し吸血鬼に渡す。吸血鬼は素直にそれを受け取り、口にくわえて爪先から火を出し美味そうに煙を吐き出した。私も同じように煙草を吸う。
「春は毎年違うのに、煙草の味は毎年変わらないわ」
「ああ」
「あー!もこー先生たばこやめるって言ってたじゃんー!」
「先生うそつきー!」
背後から聞き慣れた教え子達の声。子供はすぐに大声を出して人を指差す。
「これだから子供は……嫌いだよ」
「子供嫌いな先生が何処にいるのよ。早くいってらっしゃいな」
「ああ。そうね……ごめんみんなー!先生はやっぱり煙草やめられないわー」
「先生だめじゃん!」
「先生きんえんする意志弱すぎー!」
「むぅ……これだから子供は嫌いだ……みんなー今日は外で勉強しようなー!」
子供達に両手を取られ引っ張られる不良教師を見て吸血鬼は羨む様に笑った。
「あれが先生やってけるのはハクタクのおかげよねぇ……私は彼女の為に墓を掃除する位しか出来ないから、少し妬いちゃうわ……」
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