あの日…

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母は下半身に障害をもっている。 以前は立つことすら厳しい状態であったが、 今はびっこをひきながら家の中を歩く事くらいはできるようになった。 ―水上さくら それが母の旧姓だ。 現役の騎手をしてた頃、 地方競馬ではそれなりに名前が売れていたらしい。 女の中では屈指の腕前で男にも勝る技術があり、 高く評価されていたのだと・・・ 自分が騎手になってからいろんな人に聞かされた。 古い厩務員さんなんかは変にニヤケタ顔をしながら 「さくらちゃんは腕だけじゃなくて顔も綺麗だったんだぞ。  そりゃ俺なんかは相手じゃなかったが、さくらちゃんがいるだけでトレセンに華が咲いたようだったよ。」 色目になったおっさんどもが口々に母の話をする度に育斗は嫌悪感を抱いていたが、あまりにも色んな人に言われるもんで今では「本当にきれいだったんだな。」と思うようになった。
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