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「もう諦めたんか。」
嫌味のこもったその声は激しく蹄音の鳴り響く馬群の中でもはっきりと聞こえた。
あきらめた訳じゃない。ここで勝負に行った所で勝てるわけはない。
負けるレースで無理に体力を消耗させるくらいなら次の競馬のために温存しておくのが当然だと…育斗はそう思っている。
嫌味の声の主は育斗をするりと交わしていくと左ステッキを軽く入れ、鮮やかに先団の集団に取り付いていった。
レースの行方とは別に、育斗は取り残されたような感覚に包まれた。
…こっちはマジでレースをしてるんじゃないんだ。負けは負けでも本当に負けたわけじゃない。
そう自分に言い聞かせたが
やかましいスタンドの歓声が徐々に近づくとまた、
心の中の闇が広がっていくのが分かった。
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