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レースを終え、検量所に引き上げるといつもは笑顔の厩務員さんがムッとした顔で待っていた。
「すんません、ちょっと手応えなくなって…。」
育斗は軽い口調で言ったが、厩務員さんの顔を見て"しまった"と思った。
向けられた視線は酷く冷たいもので、返事もせずただずっと自分を睨んでいる。
育斗は自分のした事の重大さを理解した。
しかし、それを認めてしまっては自分の立場がない。
「しょうがないっすよ。馬が動かないんだから。」
生意気な口を効いた若造に厩務員さんは言葉もくれず、負けたその馬を引いて帰って行った。
育斗は自分の放った言葉の意味など深くは考えていなかった。
負けたのは自分のせいではない。
馬の能力がないからだと。
つまり厩務員をはじめスタッフの力不足だと言っているのと同じだったが育斗はそこまで考えていなかった。
どんよりとした雲が台場競馬場の空を包む。
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