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「けどな愛希。アッシュインパクトは怪盗アッシュが悪い悪魔を倒す為の技だろ?」
「うん。」
「俺は悪い悪魔か?」
「ううん。でもすずねが、かなめにむしされたらあっしゅいんぱくとしていいよって」
「凉音えぇぇぇ!は、仕事か…くそっ…!」
愛希にいらんことを吹き込んだ同居人の行方を思い出し、奏芽は忌々しげに握りかけた拳を開いた。
行方の分からない元凶より、目の前の子供に教える方が優先だ。
「…愛希、凉音の馬鹿が言ったことは忘れろ。寝てる人に飛び蹴りしたら、くらう方もくらわせる方も危ないから駄目だ。」
「とびげりじゃないもん。アッシュインパクトだもん。」
「アッシュインパクトもハイブリッドアタックも駄目。怪我して痛い思いすんのは愛希の方だぞ。」
「………」
真っ直ぐ目を見て言い聞かせると、愛希はむうと唇を曲げた。理解はしたが納得はしていないという顔だ。
「…分かった。これからは面倒くさくても忙しくても無視はしない。これでいいか?」
「よし!」
そもそもの原因の改善を報告すると、愛希は満足そうに、小学生にしては若干偉そうに頷いた。
「そんかわり、愛希も人に攻撃したり危ないことはしない。いいな?」
「はーい!」
(ほんとに分かってんのかよ…?)
元気よく返事をした小女に気付かれないようにため息をついてから、奏芽はそういえばと愛希を見た。
「で、どうしたんだ?」
「あのねあのね!でぃーぶいでぃー見たいの!」
「DVD?いつもは一人で見てんじゃねえか。」
「これ!かなめ、見たいって言ってたでしょ?」
そう言って愛希が背中から(どうやら飛び蹴りを放つ為にベルトの間に挟んでいたらしい)取り出したDVDは、先日奏芽がレンタル店で借りたものだった。
「あーこれか…」
「いっしょに見よう?」
「……………」
奏芽の頭の中に天秤が現れる。
ここで嫌だと突っぱねて昼寝を再開するか、頷いて本日のささやかな時間と別れを告げるか。
「…よし、」
軍配はあっさり上がった。
「上の部屋行くか。あっちの方がテレビでかいし。」
「うん!」
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