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「ただいまー…あれ?」
夕方、帰宅した凉音は予想外に静かなリビングに首を傾げた。
今日は腐れ縁の同居人も可愛い姪っ子も休みのはずだ。
散歩にでも行ったのだろうかと思った所で、二階から音が聞こえてきた。
家賃に見合ったように壁の薄い借家は、二階の物音も簡単に一階に届く。
テレビの音と、それ以上に大きな声。
「こ…の外道があぁっ!」
「アッシュやられちゃうの!?」
「ばっかやられっか!」
凉音が二階の部屋をのぞくと、そこには小さな子どもと大きな子供が並んで観賞会の最中だった。
「………はあ…」
とりあえず凉音は、開けっ放しのドアにもたれて、結末まで一緒に見守ることにした。
途中で邪魔をするのは可哀想だ。姪っ子が。
ほどなくして物語は終りを向かえた。
ピンチの主人公の元に前作の主人公が助太刀に現れ、形勢は見事逆転。現主人公は新たな必殺技で悪魔を倒し、街の平和は今日も密かに守られた。
「あー……やっぱいいよな怪盗アッシュ…道化師ブラックの客演とかマジ燃えるぜ…!」
「あきねあきね!アッシュみたいになりたいの!」
「愛希ちゃんはかっこいいより可愛いまんまでいてほしいなあ…」
存在主張の為に凉音が言葉を投げると、テレビに集中していた奏芽と愛希は即座に振り向いた。
「あ!すずねおかえりー!」
「何だよ?帰ってたんなら声かけりゃよかったのに。」
「熱中してるとこ邪魔しちゃ悪いと思ってね。」
駆け寄って飛びつく愛希の頭を撫でてやりながら、凉音は奏芽に笑顔を返す。
「ほんとに親子みたいだったよ?」
「彼女もいねぇのに子持ちかよ…」
「羨ましいよ。親戚の俺とよりそう見えるのが。」
複雑な表情で唸った奏芽に冗談とも本気とも取れるような口調でそう言ってから、凉音は愛希を見下ろした。
「愛希ちゃんも、奏芽みたいなお父さんがいいでしょ?」
「うーんと…」
問いかけに即答するかと思った愛希は、首をかしげながら少し間を置いて、ぱっと顔を上げて答えた。
「かなめとは…おや子じゃなくてけっこんしたい!」
「凉音えぇぇぇっ!てめっ、またいらんこと愛希に吹き込みやがったな!!?」
「ちょ、何でもかんでも俺のせいにしないでよ!」
据わった目で睨まれながら胸ぐらをつかまれた凉音は慌てて反論するが、奏芽は手を離さない。
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