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「そうだねぇ~…」
問いかけに、西田は若干眉を寄せながら改めて写真に目を通す。
「これと、これと……あとは…これかな?」
「…これとかは…どうですか?」
「これはねぇ、個人的にはすっごい好きだけど、雑誌で使うにはパンチが足りないね。」
密かに自信のあった写真を指差すと、西田はあっさりすっぱりと言い切った。
「そうですか…」
「だからこの写真もらっていい?」
「それはいいですよ。データはとってあるし。」
「いい時代だよねぇ。昔は現像するのにも時間かかったのに…まあ、それはそれで味があってねぇ…やっぱフィルムは」
「じゃ、また来週に。」
西田の談義の長さは嫌と言うほど経験してきているので、奏芽は早々に切り上げようとカバンを持って立ち上がった。
「ああ、鬼島君、」
「はい?」
「この間写真で見せてくれた娘さん、今度連れてきてくれない?」
「娘じゃなくて同居人の親戚なんですけど…じゃあ、次は土曜でいいですか?小学生だから平日だと連れてきづらいし。」
「うん。よろしく~。」
「でも、何でまた?」
疑問に思ったことを尋ねると、西田は真夏のひまわりのように笑った。
「僕はねぇ、奥さんと娘と可愛いものが大好きなんだよ。」
「……………………………そうっすか…」
満面の笑顔で言われた言葉に不純があるか否かの判断は、奏芽は保留することにした。
代わりに、何かあったら警察沙汰になろうとも、この一見裏表のなさそうな編集長を殴り倒そうと心に誓って、小さな出版社を後にした。
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