piece2:高崎凉音

2/3
前へ
/38ページ
次へ
「高崎さーん、さっき頼んだ資料なんですけどー」 「ああ。もうまとめてありますよ。」 ぱたぱたと駆け寄ってくる女性社員に、高崎凉音はたった今プリントアウトの終わった紙束を見せた。 「うわはっやーい!あれだけあったのにもうまとめちゃったんですか!?」 「もしかして、いらなくなりました?」 「違いますよぉ。明日の会議で使うから、そんな急がなくていいって言おうと思って…」 凉音の問いに、女性社員は手と首を一緒に振って、彼女の席である向かい側のデスクに座りながら話し続ける。 「でも高崎さん、ほんと仕事早いですよねー?資料まとめるのも表作るのも早いし、パソコンのメンテも修理もお手の物だし…」 「かずみさんだって仕事早いじゃないですか。」 「そんな!高崎さんに比べたらあたしなんて全然ですよ!あだっ!」 凉音の言葉に、かずみと呼ばれた女性社員、東野かずみはぱたぱたと両手を振って、勢い余って電気スタンドに右手をぶつけた。 「大丈夫ですか?」 「へーきですよー。んで、高崎さん、社員になったら絶対お給料もポストも弾むのに、何でバイトのままなんですか?」 「社員になったら残業しなきゃなんないでしょ?バイトに残業させないから、ここを選んだんですし。」 「…串崎さん辺りに聞かれたらぶん殴られますよ。それ…」 「まあ、流石にそれだけが理由ってわけでもないんですけど…」 「他にバイトとかしてるんですか?」 「そんなところですね。」 答えてから凉音は視線をふいとそらし、開いていたノートパソコンを閉じる。 東野は凉音の行動に怪訝そうな瞬きをして同じ方向、時計を見やると、納得げに「あぁ」と息をついた。 時刻は午後四時。アルバイトの定時だ。 「高崎さん、公務員になったらいいんじゃないんですか…?」 「それじゃお先に失礼します。お疲れ様でした。」 どこか呆れたような面持ちでそう言った東野に、凉音はにこやかな笑顔を返した。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加