1人が本棚に入れています
本棚に追加
「高崎さーん、さっき頼んだ資料なんですけどー」
「ああ。もうまとめてありますよ。」
ぱたぱたと駆け寄ってくる女性社員に、高崎凉音はたった今プリントアウトの終わった紙束を見せた。
「うわはっやーい!あれだけあったのにもうまとめちゃったんですか!?」
「もしかして、いらなくなりました?」
「違いますよぉ。明日の会議で使うから、そんな急がなくていいって言おうと思って…」
凉音の問いに、女性社員は手と首を一緒に振って、彼女の席である向かい側のデスクに座りながら話し続ける。
「でも高崎さん、ほんと仕事早いですよねー?資料まとめるのも表作るのも早いし、パソコンのメンテも修理もお手の物だし…」
「かずみさんだって仕事早いじゃないですか。」
「そんな!高崎さんに比べたらあたしなんて全然ですよ!あだっ!」
凉音の言葉に、かずみと呼ばれた女性社員、東野かずみはぱたぱたと両手を振って、勢い余って電気スタンドに右手をぶつけた。
「大丈夫ですか?」
「へーきですよー。んで、高崎さん、社員になったら絶対お給料もポストも弾むのに、何でバイトのままなんですか?」
「社員になったら残業しなきゃなんないでしょ?バイトに残業させないから、ここを選んだんですし。」
「…串崎さん辺りに聞かれたらぶん殴られますよ。それ…」
「まあ、流石にそれだけが理由ってわけでもないんですけど…」
「他にバイトとかしてるんですか?」
「そんなところですね。」
答えてから凉音は視線をふいとそらし、開いていたノートパソコンを閉じる。
東野は凉音の行動に怪訝そうな瞬きをして同じ方向、時計を見やると、納得げに「あぁ」と息をついた。
時刻は午後四時。アルバイトの定時だ。
「高崎さん、公務員になったらいいんじゃないんですか…?」
「それじゃお先に失礼します。お疲れ様でした。」
どこか呆れたような面持ちでそう言った東野に、凉音はにこやかな笑顔を返した。
最初のコメントを投稿しよう!