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「………さて、家にいるかな?」
アルバイト先を出た凉音は、歩きながら携帯を出すとボタンを見ずに押して耳に当てた。
『もしもし?』
数回のコール音で相手が出る。
「あ、もしもし?バイトは今終わったんだけど、『仕事』が入っちゃってさ。うん、夕飯は自分で適当に済ますから…え?いや、いいって……そっか。うん、ありがと。あっ、ねぇ、」
『っ?』
「何かこの会話って、夫婦みたいじゃない?」
『――――っ!!!』
悪戯っぽく笑って凉音が言うと、相手は受話器の向こうから飛び出してきそうな勢いの怒声を叩き付けてきた。
だが慣れているし相手の反応も予想していた凉音は、笑ってそれを受け流す。
「あっはは!それじゃあ帰る時にまた連絡するから。じゃね?」
なおも怒鳴り声の響いていた電話を切って、凉音は今度は別の携帯を取り出して、電話をかけた。
「もしもし?お疲れ様です。」
その顔には、東野と話していた好青年の表情にも、最初の電話相手と話していた楽しげな表情にもない、陰が落ちていた。
「例の件ですが、今日中にはケリをつけられそうです。はい…」
やりとりを続けながら、凉音は繁華街の暗がりへと入っていった。
高崎凉音
副業:アルバイト事務員
本職………不明。
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