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【離れゆくもの】独+普 「ヴェストー、楽しいかよぉ」 「ああ。というか、兄さん酔ってるだろ」 「んぁ?そんなことねぇよ」 何杯目か分からないビールを飲み干し、自分でも頭がぼーっとしてるのが分かる。でも、久々に腐れ坊っちゃんとハンガリーのヤローがいねぇのに羽目を外さないのは勿体ない。だが、折角二人がいねぇ絶好の機会なのにヴェストは眼鏡を掛けながら資料に目を通している。多分世界会議とか、外交に使うものなんだろうが政治に関われない俺には関係のないことだ。 ヴェストは俺の弟ながら、くそが付くくらい真面目でこういう時は絶対に相手をしてくれない。でも、昔から意思表示だけはするから、楽しいかどうかは別としてつまらないわけではないと思う。けど、ヴェストは何時も仏頂面で滅多に笑うことはないから、こういう時くらい笑顔を見たいと思うわけで。 「ヴェスト~楽しいかぁ?」 「兄さん、もういい加減に……」 ばたっ 「は?」 音がした方を見ると、先程まで俺の背中にあった熱はなく、床でぴすぴすと寝息と立てていた。俺の兄であるはずの男はあどけない表情を湛えながら、俺の名前を呼んでいる。あまりの幼い表情に自分の兄かどうか疑いたくなるが、この身体にある記憶が確かに兄であることを物語っている。 「とりあえず運ぶか」 「……ぇすとー」 ここに放置するのもアレなので寝室に運ぼうとすると、甘えるような声で兄さんが抱きついてきた。ふにゃふにゃ笑っているところを見ると、余程幸せな夢を見ているらしい。体を引き剥がすのも面倒なのでそのまま抱き抱え、寝室に運んでいくことにした。当の本人は相も変わらず幸せそうに俺の名前を呼んでいる。 「これじゃ、どっちが兄か分からんな」 くすりと笑うと兄さんは眉間に皺を寄せ、ぷーっと頬を膨らませた。今の言葉が聞こえたのだろうか。いや、目を開く気配はないから夢の中で言われたようなものなのだろう。 「……ぇすと………なよ」 ベッドに身体を落ち着かせたはいいが、兄さんが俺の服を掴み、そのまま寝入ってしまった。仕方ないのでそこに腰掛け、徐に兄さんの髪をかき上げると汗で髪が湿っていた。今はこうして触れることが出来るが、この身体はいつ消えても可笑しくない。 『ヴェスト、俺の傍から離れるなよ』 兄さん、それは俺の台詞だよ。
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