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「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店員の明るい声を受ける背中、経済的戦力を大幅に失った繁の背中は悲しみに満ちていた。
次の給料日まで後1週間。それまでどう節約して生きていくかを考える余裕など、今の繁には無い。
「はぁ……。神よ、もしあなたがこの世にいらっしゃるなら私に真の幸せを下さい。その為なら友達でも家族でも生け贄にします」
神はその声を聞いていた。彼がそう呟きながら通り過ぎたラーメンの屋台に座る親父に、店主は声を掛ける。
「おい、いいのか?さっきの兄ちゃん」
「心配する必要はない。あいつは今年のサマージャイアント宝くじで1等2等と前後賞を当てることになってる」
「へぇ、そりゃ羨ましい。しかし生け贄を捧げる覚悟が決まる程追い詰められるたぁ、あの兄ちゃんも大変だねぇ」
「そうされると困るんだよね。マジ生け贄とか考え方が古いし、生け贄に捧げられた命を黄泉に運ぶとなると手続きが面倒くせぇ」
「……そうかい」
そんな会話が耳に入るわけなどない繁だが、この後彼は商店街の福引きに挑戦。見事サマージャイアント宝くじ3枚を獲得した。
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