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誰も助けにはいかない。これは勝負なのだ。馴れ合いではない。
しかしたかしの姿勢には勇気をもらった。俺はペダルを更に強く深く踏み込む。
全身全霊を足にかける。余計なものは一切シャットアウトし、一心不乱に漕ぐ。
周りとの差は開き始める。芦田兄弟も、補助輪の守も、手放しの武彦も、一輪車山下も、近道の英彦も敵ではない。
今日は勝つつもりできた。一切をそれにつぎ込んできたのだ。負けてたまるか!
自転車はついに最後の坂道に到達する。ここを越えればアパートだ。一位はまさる。二位はじゅん。三位は俺だ。
四位以降との差は大きくないが、ここまでくれば抜かれないだろう。
一位から三位は僅差であるが、坂道はじゅんに分がある。電動アシストは化け物だ。
「残念だよ二人とも。僕の勝ちだ」
じゅんが坂道の中腹でトップに踊り出る。俺たちのように重いペダルはじゅんにはない。
つまり、ペダルの重さを知らないのだ。電動という便利な物にほだされたじゅんには重いペダルを踏んだ記憶がない。辛い鍛練の記憶も。
積み重ねのないじゅんには、支えとなる心のよりしろもない。俺たちにはある。鍛えてきた、という自信が。
ペダル踏み込む。体力はもう限界に近いが、弱音を吐いている暇はない。負けてなるものか。絶対に勝つんだ……!
「うおぉぉぉ!」
俺は自分でも驚くほどの底力で坂を上がっていく。まさるを抜き、遂にはじゅんも射程圏内にとられた。
「な、なにー!」
「あばよ、じゅん」
電動がどうした。俺はそれをも越えていく! 俺がNo.1だ!
じゅんの足は止まっている。体力不足、それであった。
じゅんを抜き去り、後は最後の百メートル。
勝った……。
そう確信した。が……
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