お家へ帰ろう

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「まだだ!」 まさるが、坂道を信じられないスピードで登ってきたのだ。伊達に立ち漕ぎばかりしているのではない。その脚力と持久力を舐めていた。 「負けてたまるか! 王者の座は誰にも譲らん!」 俺にも意地がある。掴みかけた勝利を手放すわけにはいかない。そんなこと死んでも嫌だ。 「うぉぉぉお!」 既に全身は悲鳴を上げているが、そんなことはお構い無しに酷使する。流れ出る汗も無視し、最後の道をひたすら前へと漕いだ。 まさるも負けじとやってくる。最早獣じみたレベルで迫ってくる。 あと数メートル…… 結果は…… アパートの敷地内に先に入ったのは俺だった。 僅差の勝利である。 「はぁ……はぁ……はぁ……よっしゃぁあああ!」 歓喜し、俺は絶叫した。この瞬間のために俺は自転車を漕いで来た。雨の日も風の日も、No.1の称号を得るために費やしてきた。 それが今ついに手の中に……。堪らない……。これが王者の愉悦か……。頑張ってきた甲斐がある。 あの時、駐輪場に置かれた自転車を見つけていなければ、こんな興奮を味わうことはできなかったに違いない。 至高だ……。 「負けた……。だが今回は!だ。次は覚えてろ」 悔しそうに言うまさると握手を交わし、俺は自分の部屋に向かった。 家に入ってまず手洗いうがいを済ませ、タオルで汗を拭く。リモコンでテレビをつけ、再放送のドラマをかける。 このドラマ懐かしいな。けっこう好きだったんだよな。 柔らかいソファーに腰を沈め、テレビを見ているとふと思うことがある。 何だこれ……と。 どこかの誰かが言った。 青春とは馬鹿馬鹿しいものだ、と。
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