お家へ帰ろう

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あと一分……。俺は息を飲む。 あと一分でチャイムが鳴る。チャイムが鳴ったら学校は終わりだ。そこからが勝負……。今日こそ俺が勝つ……。 緊張と興奮で、俺の心臓は激しく暴れている。しかし心地よい。死闘の前の、この張りつめた精神状態は最高だ。 「ちょっと早いが終わるか」 やった……! これは行幸……! 勝てる! 思いもよらぬ幸運が舞い込んだ。 大会のルールには、チャイムが鳴ってから開始とは決められていない。学校終了後となっているため、違反ではない。 もらった……! 勝てる! 「はいさようなら」 教師の挨拶を聞くと同時に教室を飛び出す。ルール上、廊下は走れないため、競歩で駐輪場へ向かう。 これはイケる……。 完全に追い風であると思った。しかしそれは過信であった。駐輪場でその現実を見せつけられた。 クラスの中ではずば抜けて早かったが、他のクラスにはもっと早く終わっているところもあったらしく、駐輪場に人影があった。 その数一つ。焦る必要はない? ふざけるな……。そいつが誰だかわかっていない。 「てるぅぅぅ!」 俺は怒号を響かせ走った。校舎を出た今は、思う存分走れる。 てるは慌てて自分の自転車に乗り、校内を出ていく。 やられた……。 てるの早さは心配に及ばない。今からでも軽く追い抜けるであろう。問題はそこではない。 施錠のてる。 奴はこう呼ばれている。実力は大したことないが、気紛れに施錠をしやがるクズだ。 てるはよりにもよって俺の自転車を触っていた。つまり…… 「くそ……!」 案の定俺の自転車は施錠されていた。鍵はついたままだが、その小さなタイムロスは痛い。 チャイムが轟音を響かせながら鳴る。続々と押し寄せて来るに違いない。 まずい……! 悪い予感は当たる。 「じゃあなー」 校舎から一目散に校外へ出ていく一人の男。 二足歩行のかず! 参加者の中で唯一自転車に乗らない男だ。走りは小回りが利くので、かずは意外と早い。 負けてられるか! 解錠し、俺は自転車に飛び乗る。何度もやってきた。加速の仕方も重々承知だ! 即座に加速し、俺は校外へ出た。
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