序 章

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音のない雷鳴 全く身体に当たらない突風 全く濡れずに冷たさすら感じない豪雨 この不思議な天気の中、フードのついたコートを身に纏い、人が全く通ることのない山道を歩く人間が左にいる。 顔はフードを被っているため口元しか見えない。その口元も動いているのだが、全く聞こえないのだ。 声だけではない、雷も突風も豪雨も全て聞こえない。 しかし、その人間には突風も豪雨も感じているのか突風で身体はよろけ、豪雨で冷え切ったのか時折身体を震わせていた。 人間はただ前へと進み続け、歩みを止めようとはしない。 この様子だと、なにか『目的』があるようだ。 この山道を進んだ先になにかあるのだ。 それが一体何なのかは分からない… ただ分かるのは、私がその場にいるかのように… その人間が隣にいるかのように… 人間の声も突風も豪雨も雷鳴も聞こえず、何も感じない。 その人から感じる何か温もりのような、殺気のような… 矛盾しているのだが、そういう何かを私は感じていた…
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