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「田村さん、だいぶん慣らはりました?」
稽古終了後、他の門弟を見送りに出ていた家元が稽古場の和室に戻って来た。
グズグズと帰り支度をしていた自分が、どうやら最後らしく稽古場にはもう誰も残っていない。
「はい、大分。」
何を教える教室か知らないまま説明を受け、勢いで入門してから早や2ヶ月。
初めは戸惑うことも多かったが、ようやく皆と足並みを揃えられるようになった。
「田村さんは一番熱心に通てくれはるから。上達も早いんちゃいますか?」
「そ、そうですか?」
ここの教室は月、水、金の昼の部と夜の部、日曜の昼のみ行われている。
内容は週替わりなので、ほとんどの門下生は週1か週2ペースで通っているらしい。
でも自分は残業や用事がない限り、平日の夜の部3回と日曜の昼に顔を出すようにしていた。
やってみると案外楽しくてハマったというのも大きな理由だが、一番の理由はやっぱり、その。
チラリ、と目の前の人に視線を向けると柔和な笑みで自分を見ているそれとぶつかって、慌てて目線を逸らす。
「で、ではっ、そろそろ失礼します!!」
荷物をひっ掴んで踵を返そうとしたその時。
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